-
2022
2/10
しろこさん
満足度 4.5
※ほぼフィクションです。念のため。
この1年ほど、結構、私がんばってた。やせたり、着るものに気を遣ったり、やるべきことを後回しにして時間を作って寝不足になったりしてた。
解放されて楽になり、そして心のある部分が空っぽになった。
街に出ると春色の服がショップに並んでるのに、色が消えてしまったかのよう。好きなタイプの柄を見つけても、手に取る気力すら湧かない。
ダメだ、若い時からいつもそう。
心が折れるとキレイにすることを、あきらめてしまう。うっかり太り、パーカーにジーンズでくたびれて歩いてる自分に気づいて焦る。
もう二度と、誰にも女性扱いされないにしても。
自分のために、キレイにしよう。
ふらっと入った百貨店。小心者には恐怖のコスメフロアをさまよう。口紅を眺めてたら、販売員にぐいぐい押されて一本買っていた。
「Killing me softly(じわじわと息の根を止める)」
よりによって、ひどい名前のルージュだな。
真綿で首を絞めるように、じわじわと。寂しくて死んでしまいそうなところを、仕事や趣味でまぎらわせている。
そしてお酒と。
いつもよりピンクの濃い口紅を塗った唇を、薄はりのグラスにつける。
忘れるために飲むのに、無意識に2人でたくさん飲んだ「町田酒造」を選んでしまう。
「町田酒造 特別純米 直汲み 美山錦」
いつものシュワっと活きのよい挨拶をしてくれて、く〜甘うま〜と浸る間も無く苦味が追いかけてくる。
飲みやすいのに、深いなぁ。
町田酒造のピンクも黒も青も「???」も一緒に飲んだっけ。
去年の5月に、このお酒の「雄町」で書いたレビューが時間を超えて刺さる。
ーーーーーーーーーーーーーー
あふれるほど、もっとほしい。 「お酒」の部分を、「時間」や「言葉」と置き換えてもいいし、それは結局のところ「愛情」なのかもしれない。
ーーーーーーーーーーーーーー
相手は目いっぱい注いでたつもりなのかもしれない。でも、私には足りなかった。じわじわと心を削られるのに耐えられず、「もういらない」とグラスを割って逃げた。
子どものころから、愛され下手だった。そもそも、ちゃんと愛されずに育ったから素直になれない。
仕事だけが、私を裏切らない。没頭して生きてきたご褒美をもらったと思えば、この一年を許せる気がした。
お疲れ、私。
春になったら、このふざけた名前のルージュを引いて、あと2センチ高いヒールを履いて。
新しいステージに向かおう。
特定名称 特別純米
原料米 美山錦
酒の種類 生酒
テイスト ボディ:軽い+1 甘辛:甘い+1
町田酒造 (群馬 / 町田酒造店)