自分で「現実逃避の達人」だと勝手に思っている。
子どものころは、辛いときは活字を流し込み続け、目の前に活字が無いときは頭の中で「違う世界でしあわせな自分」を妄想することで乗り切ってきた。
自分で稼いだお金を自分で使えるようになったら、映画とか音楽とか甘い物とかきれいな服を心の隙間に詰めこんで、ハードな場面をやり過ごしてきた。
仕事って、がんばったら褒められるんだ!とわかってからは、中毒になった。
夢中になっていれば、時間が過ぎていく。
疲れ切って眠るだけなら、悲しむ暇も悩む暇もない。
お酒を覚えてからは……となると、さすがにヤバいけれど、時々「考えないために飲む」夜もある。
そんな時にそっと棚の片隅から取り出すのが「貴醸酒 湖東富貴(ことぶき)」。
お酒でお酒を醸して、10年寝かせてとろとろになっている。
ベッドサイドに持ち込んで、イヤホンで音楽を耳に、ロックでお酒を喉に注いでぼんやりする。ちょっと焦げたようなほろ苦さが「甘いだけじゃねーんだよ」と、不安を連れてくる。
そんな時は、もっと自分を甘やかすための裏技を使う。
ハーゲンダッツのバニラを買ってきて器に開け、琥珀色のこのお酒をかけて「うっとりの2乗」にする。
これで、今夜のところは大丈夫。
溶けて眠って、また明日から現実に向き合おう。