「酒造りは微生物への愛情。」6代目蔵元・池田敬氏が、1885年創業の大地家が残した伝統文化の日本酒承継を決めたのが2019年のことだった。さかのぼる当時、5代目当主の大地正一氏は蔵を残したい一心で尽力したが、子供たちはそれぞれの道へ。跡継ぎ探しに孤軍奮闘していた彼のもとへ「酒造りをしたい」と訪ねたのが当時地元で酒店を営んでいた池田敬氏。戸惑う大地氏に自作の酒米を持ち込み本気度を示し、その熱意を受け取った大地氏は意を決して酒造りを教え込んだ。そこで生まれたのが純米吟醸酒「龍爽香(さちかぜ)」、2015年のこと。その酒に感銘を受けた若者が酒蔵の門戸をたたきジョイン。そして、兄を助けねばと県内の二つの蔵で10年以上酒造りを学んできた弟の池田司氏も使命感を持って杜氏に。「美味しい」と言ってもらえるフルーティな酒よりも、一口飲んで「うん」と頷ける旨味のある酒を造りたいと、手数を惜しまない。暁嵐の滝の伏流水を使い「この米にはこの酵母。この酵母にはこの麹」などそれぞれの個性を大切に醸す。兄弟が伝統を絶やさぬ覚悟を決め、ニューフェイスの銘柄『花笑み』が、蕾を開いた。花笑み、すなわち、花が咲いたようにぱっと明るくなるような笑顔のこと。まるで花屋の店先のように、椿、カスミソウ、ダリア、ユリ、胡蝶蘭、スペックに応じて色とりどりのラベルが並ぶ。花言葉の印象から大切な方への贈り物として選んでもよいかもしれない。