春のお酒を一合ずつ、4種類飲み比べ。ラベルも花盛り、「まんぼう」とやらでまたも外飲みがしづらくなるニュースを横目にひっそりと、部屋に閉じこもって飲む。
「三井の寿 春純吟 クアドリフォリオ(四つ葉のクローバー)」「賀茂錦繍 さくらふぶき」「奥播磨 春待ちこがれて」「綿屋 春錦」
ふわっと甘いの、酸がキュッと引き締めた後にとろけるの、旨みがしっかりしたの、果物っぽいの。
例によって、気持ちよくなってどれがどれだかわからなくなる前に、記憶のメモに筆圧高めで書き込んだのは「賀茂錦繍 さくらふぶき」
最初は甘酸っぱく流れ込んできて、続くやわらかな甘さに膝の力が抜けていく。
あっちこっち温かい手で撫でられてダメになってしまうような、うすにごりの優しいお酒。
溶けながら、思う。
……春の夜って、儚いなぁ。
帰り道、酔いと眠気を覚ますのに、思い立って桜ふぶきの下を歩く。
この間、散る直前だった公園の桜がふわふわ舞っているのを、拾い上げて手帳に挟んでおいた。
イヤホンからは、今いちばん若い子に売れている曲が流れこむ。
♪ドライフラワーみたい 君との日々も
きっときっときっときっと 色褪せる♪
そんなこと、20年前から知ってるよと、いい歳した大人の酔っぱらいは、威張ってみせる。
知ってるからこそ、あえて咲かせない、色づかせない。
ぼんやりと霞がかかったままで。
数年後に手帳からこぼれた桜の花びらに、胸の痛まない自分でありたい。
特定名称
純米吟醸
原料米
雄町
酒の種類
生酒
テイスト
ボディ:軽い+1 甘辛:甘い+1