限定酒を手に入れたら、飲み相手に声をかけたくなる。
いつもは前もって一口飲んで持っていくかどうか決めるけれど、今回は開けずに持ち込んだ。
今日の限定酒は、「寒菊 電照菊純米大吟醸50 おりがらみ生」。
キラキラとした泡がガラスの器の中で踊り、発酵感も酸味もあるけれど強すぎず、澱が甘さの余韻をくれる。2人とも好きなタイプのお酒で、数時間で4合びんを空にしてしまった。
「電照菊」の光のように秋の夜長を照らしてほしい、というのが名前の由来らしい。
いや、そんなロマンチックな話じゃないよね、と思う。電照菊に当てる光は、「咲いちゃダメ」の命令。日照時間が短くなると咲こうとする菊に、人工の光を当てて夜を忘れさせ、咲く時期をコントロールする。
飲むために借りるいつもの部屋は、遮光カーテンで守られていて、照明が薄暗い。すぐに酔ってしまうから、昼なのか夜なのか、下手したら夏なのか冬なのかもわからないまま四季を過ごした。
この日も、黄色いスポット照明がふわりと影を落とす中で、お酒と遠慮がちな言葉を注ぎあう。枯れかけの芽が、水を浴びて生き返る。でも決して、夜になっても眠りにつくわけにはいかない。
夢うつつの時間が過ぎ、ひとり、部屋に残される。
眠気を振り払いながら、空のビンを片づける。
「咲いちゃダメだよ」の言いつけを、健気に守っている電照菊のように。
いつまでいい子でいられるだろう。
……私の抱える花は、つぼみにすら、なれない。
特定名称
純米大吟醸
原料米
山田錦
酒の種類
無濾過 生酒
テイスト
ボディ:軽い+1 甘辛:甘い+1