昔、一人で全国に出張に行くような仕事をしていた。仕事が終わると、地元の居酒屋に入り地酒と土地のものを注文する。
もう10数年前、山口県でおすすめを出してもらい、一口飲んでびっくりしたのが「獺祭」だった。
今ほど全国区ではなかったので、事前情報無しに飲んだきれいなお酒に、旅先飲みサイコーだなとうっとりした。
そして日本酒の知識がつき始めて、なんとなく飲む機会を逸していたのを、その日は目に留まったので注文する。
あー、美味しいなぁ。
相変わらず飲みやすく、きれい。喉ごしがよくて、薄く漂う米の気配が上品。
昔と違うのは、一緒に飲む相手がいることだけ。
その日は、数年間の大仕事をふりかえるような仕事があり、終わった後に遅くから外飲み。
仕事の上でのパートナーシップは最高だけど、それ以外の相性はイマイチな相手と盃を交わし合う。
飲む量に応じて、仕事の話からたわいもない話にゆるんでいく。いいお酒はその速度がはやい気がする。
ぐらつかないように、その人の困ったところを笑い話として持ち出す。
意固地だし、物の言い方がなってないし、よくケンカをした。図々しくて、人たらしなくせに、肝心なところで取引先の地雷を踏んで後始末をさせられたこともある。
ただ、粘り強く盾になったり背中を押したりしてくれて、仕事で目指すところに連れてってくれた。
カッコよかったです、という言葉を飲み込んで仕舞っておく。
目の前にいる人とは、ピンと張った糸電話のようなクリアな信頼感がある。近づき過ぎると、聞こえなくなってしまうから、この距離がちょうどいい。
お疲れさん。
お互いに。
かつて、知らない土地で一人で「やだこれ美味しいんだけど!」とわけわけする相手もおらず飲みほした「獺祭」が、今日は倍おいしい。
もう一仕事、がんばろう。
ゴールと、解散の日は近い。
特定名称
純米大吟醸
原料米
山田錦
テイスト
ボディ:普通 甘辛:甘い+1