「伊那平」の言葉にもあるように、伊那地方は山の多い長野県では平らな土地が広がる米作地帯。酒造好適米の代表的な産地にもなっており、この蔵も地元産「美山錦」を主体に酒造りを行なっています。 「信濃鶴」が一躍注目を集めるきっかけとなったのは2001(平成13)年、製造する酒すべてを純米造りにした時のこと。気骨ある蔵の方針に賛同する愛飲家が多かっただけでなく、従来地元市場には普通酒を出荷していたがこれも純米酒になり、コストパフォーマンスのよさから県外他地域の酒販店からもオーダーが殺到しました。また同年は「全国新酒鑑評会」でも金賞を受賞。純米大吟醸での出品がまだ珍しかった時期にあって、純米造りの特性を反映させつつ力強く切れのよい酒質が印象に残ります。 この酒に見るようにこの蔵の真の価値を感じるのは、味はきれいだが線が細く硬くなりがちな傾向のある「美山錦」を使って、その美質を活かしながらも押しのある芯の強い酒を生み出していること。杜氏を兼務する北原岳志社長の信条と技量が酒質にも映し出されています。 (松崎晴雄)